大学生だった、ある初夏、
お昼前から国立能楽堂の当日券に並んだ。
前に並ぶご婦人は平泉から深夜バスでいらしたという。
金色堂の朝までかかる行事のことなど小一時間伺った。
運良く並びの席に座れた。
舞台に囃子方や地謡が並んで、
ぎっしり詰まった客席が静まって、
鼓がポンポンとなるとキラキラと波が光る穏やかな海が広がった。
一番終わって、言いたくてしょうがない。
喋っていい頃合いに
隣を向くと、キラキラした眼。
「「鼓が凄かったですね!」」と声が合った。
海がキラキラしてたのも、小舟がいたのも、
多分、瀬戸内海なのも、そうでしたよね〜と。
別な時、
ワキ方が橋掛かりを出てきて謡うと、
氷雨が降っている世界になった。
時が経って、その方のご子息が同じ役をつとめたとき、
落ち葉を踏む音が聴こえるようだった。
お父上のように、とつとめておられて、
目をつぶると、ところどころ懐しい響きがある。
一足一足、落ち葉を踏むその試みの果てに、
あの氷雨があるのかなあとしのばれた。
ひとつの鼓の音、一歩踏み出す足が
場をつくる
場を変える
と知った。
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